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IP国際技術特許事務所 ブログ

新宿区歌舞伎町にある特許事務所です
商標権侵害訴訟と裁判員制度
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    商標権侵害訴訟と裁判員制度
    Trial for Infringement of Trade Mark Right and Semi-Jury Trial System

    1.はじめに
     商標権侵害事件の争点は、一般的には原告の登録商標と被告の使用する標章との類否判断、及び、登録商標の指定商品と被告が使用する標章が付された商品の間の類否判断が主要な争点であり、登録商標が明らかな無効理由を有するかどうかは、どちらかと言えば付随的な争点となっていました。
     しかしながら、平成17年4月から施行された特許法の改正によって、裁判所が従来行ってきた「明らかな無効理由を有するか否か」の判断だけではなく、「明らかであるとは言えない無効理由」についても判断することができるようになった(特許法第104条の3,商標法第39条で準用)ことから、登録された権利が無効理由を有するか否かの争点の重要性が高まると共に、登録要件の判断が特許庁と裁判所で一致せず、ダブルスタンダードの問題が生じるのではないかが危惧されています。
     具体例で考えてみましょう。

    2.登録商標「IP FIRM」の場合
    (1)私は、「TOKYO IP FIRM」を使用する被告を原告の商標権を侵害するとして東京地裁に訴えました(平成17年(ワ)768号)。原告も被告も特許事務所を経営する弁理士であり、被告が提供する役務は登録商標の指定役務と同一です。
    (2)上記訴えに対し、被告は、「本件商標登録の指定役務の需用者又は取引者は、工業所有権に関わる者や法律関係者であり、特に、本件商標『IP FIRM』が英語であることから、これらのうちで英語が読める者又は理解できる者、特に外国人の工業所有権に関わる者や法曹関係者であり、英語が全く読めない者又は理解できない者は需用者又は取引者には入らないと考えられる。」と主張しました。
    (3)また、「IP」は「Intellectual Property」の略であって「知財」を意味すると共に、「FIRM」は「特許事務所」を意味することが周知であり、インターネットで「IP FIRM」を検索すると無数ヒットするから、「IP FIRM」は「知的財産を扱う特許事務所」を意味する普通名称であって、本件登録商標は無効理由を有する商標であると主張する一方、「TOKYO IP FIRM」と「IP FIRM」は類似しないと主張しました。
     その後のやりとりで、被告は、「IP FIRM」が普通名称であるとは言えない場合であっても、「需用者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」(商標法第3条第1項第6号)に該当する、との主張を追加しました。
    (4)そこで私は、被告の主張に対し、次のように弁駁しました。
    (イ)被告の提出したインターネットの検索結果は、登録商標の登録査定時である2004年6月14日時点の証拠とはなり得ない。
    (ロ)「IP FIRM」で検索しても、これが必ず一語として検索されるという訳ではなく、殆どがノイズである。
    (ハ)また、証拠を分析しても、登録査定時に我が国で「IP FIRM」が使用されていたと認定することはできない。
    (ニ)外国での使用もわずかに文章中に出てくる程度であり、我が国における自他役務識別機能を否定する根拠にはならない。
    (ホ)特許事務所の役務の需用者を知財の関係者や専門家に限定するべきではなく、中小企業や個人など、知財とはなじみの少ない一般人を需用者から除外することは誤りである。
    3.しかしながら東京地裁は、被告の主張を殆どそのまま採用した上で、
    (1)「本件登録商標の査定時(平成16年6月14日)と近接した被告による調査時(平成17年2月及び3月)において、・・・登録日と調査日の厳密な先後関係や、当該使用態様が商標的な使用か否かは上記結論とは無関係である。」、
    (2)「本件商標権の指定役務は,弁理士が主体となって開設する特許事務所や,いわゆる知的財産事件を担当する弁護士が開設する法律事務所が提供する役務であるから,本件需要者等は,工業所有権の取得又は著作権の利用を希望するか,あるいはこれらの権利に関する紛争解決を希望する個人又は法人であり,これらの個人又は法人の担当者は,知的財産権に関しては相応の関心と知識を有している者であることは明らかである。」
    (3)「・・・その需用者等の間において、『IP FIRM』が知的財産権を担当する事務所の意味として理解される以上、それが広く国民全般に認識されているか否かは上記結論を左右するものではない。・・・『IP FIRM』が記述的な表現であれ、『知的財産権を取り扱う事務所』という意味で多数使用されていること自体が,『IP FIRM』が自他役務識別機能を有しない根拠となるものであり,『知的財産権』,『知財立国』などの言葉が一般的に用いられている近時のわが国の状況において,『知的財産権を取り扱う事務所』を意味する英語である『IP FIRM』について,独占的使用を許すことが相当ではない根拠となるものである・・・」などと判断しました。
    4.私は、上記地裁の判断を不服として控訴しました(平成17年(ネ)第10097号)。控訴理由の概要は次のようなものです。
    (1)原審の判断においては、控訴人(第1審 原告)の登録商標「IP FIRM」に対する、自他役務識別機能なしとの判断の基礎となる証拠の採用、及びその評価が予断に基づいてなされたと解される上、登録商標「IP FIRM」に対する需用者の認定にも誤りがある。
    (2)被控訴人が提出した証拠の証明力に対する厳密な認定を放棄し、上記事実誤認に基づいてなした原審の判断は、本件商標権を積極的に使用してその財産的価値を高めてきた控訴人の努力を無視し、控訴人のみに対して著しい損害を与える不平等なものであるから、法の下の平等を規定した憲法第14条の規定に違反する。
     しかしながら、裁判所から強く和解を勧められたため、控訴人は種々の理由から和解で決着させ、第1審判決の法的効果を失効させることに同意しました。
    5.この裁判における第一審の判断に対する疑問点
    (1)厳密であるべき判断時点(登録査定時)を軽視したのではないか
    (2)裁判所の、証拠の証明力に対する判断は妥当であるか
    (3)「知的財産を取り扱う事務所」が特許事務所や法律事務所に限定され、例えば音楽著作権協会の様な団体は含まれないかのような判断は、社会の実状と乖離しているのではないか
    (4)知的財産関係の役務に対する需用者は、一定レベル以上の知識を有する者であるとして、中小企業や一般市民を切り捨てることに躊躇はないのか
    (5)「IP FIRM」は「知的財産を扱う事務所を意味する」との判断においては、「IP COURT」の使用を開始したばかりの裁判所に「予断」がなかったと言い切れるか

     私は、商標法や不正競争防止法適用の際に共通する問題点は、本来需用者の目線で判断されるべき事を、裁判所が需用者に成り代わって判断する点に有るように思います。
    6.2009年から実施される裁判員制度の概要は次のようなものです。
    (1)特に重大な刑事裁判を対象として、事件毎に裁判員を選任する。
    (2)3人の裁判官と6人の非法律家である市民(裁判員)によって有罪無罪を決定し、量刑も決定する。
    (3)裁判員候補者はランダムに抽出され、簡単な質問に対する回答を経て、事件に対する予断を持たず、公平な判断を期待する事のできる市民が裁判員として選任される。
    (4)裁判員の拘束日数を短縮するために集中審理が予定されている。
    (5)公判前準備手続で争点整理を行うことが予定されている。
    7.商標権侵害訴訟と裁判員制度
     商標権は、権利者の業務上の信用を保護するためだけではなく、需用者の保護も目的としており、工業所有権の中でも特に一般社会とのかかわりが強いこと、自他商品・役務の識別機能の有無の判断は、需用者が判断主体である筈ことから、需用者である複数の市民の判断を直接反映することのできる裁判員制度を商標権侵害裁判に導入することが望ましいと考えます。

    参考文献: 滝田清暉、「裁判員制度と特許裁判」 パテント Vol.55 No.10
    | 学会発表 | 10:29 | comments(0) | trackbacks(1) | - | - |